ワークシェアリングのあり方
ワークシェアリング検討委員会委員長 辻井 昭雄
(関西経営者協会副会長)(近畿日本鉄道取締役社長)
要約
はじめに
雇用情勢が厳しい様相を呈している中、これまでの雇用維持手法による雇用と賃金の維持・両立は困難となりつつある。
このような状況の下で、雇用の維持・創出を図ることを目的とした「ワークシェアリング」という考え方に注目が集まっている。
概要
1.ワークシェアリングの概念・定義
従来、企業はさまざまな雇用調整措置を講じて雇用安定に取り組んできたが、本検討委員会としては、個別企業の努力も限界にあると認識した上で、ワークシェアリングを新しい形の雇用維持・創出策として位置付け、
1.雇用の維持(創出)を図ることを目的とするもの
2.仕事の分かち合いを行うもの
3.所得の分かち合いを行うもの
という三つの要件を全て満たすものと定義した。
2.ワークシェアリングの類型
ワークシェアリングには多様な形態があるが、欧州の実態を類型化すると次のようになる。
1.目的、効果別
・雇用維持型 ・雇用創出型
2.実施単位別
・マクロ型 ・ミクロ型
3.実施根拠別
・法律型 ・労働協約型 ・個別契約(労働契約)型
4.時短手法別
・一律型(画一型) ・個別型
3.わが国への導入の可能性と課題
1)ワークシェアリングの目的、効果について
当面は雇用維持型に目を向けざるを得ない。 もっとも、雇用創出型(勤務形態変化型)にも整えるべき幾つかの前提条件はあるが、中期的課題として視野に入れる必要がある。
2)ワークシェアリングの実施単位について
マクロ型の実施に際しては社会的コンセンサスを得ることが必要であるが、実際には難しいと言わざるを得ない。
ミクロ型は実施単位が小さいため、単位ごとの実情を踏まえた検討が可能である。中でも企業単位型は、個別企業労使の協議が前提ではあるが、労使の柔軟な対応がなされれば導入は可能であり、こうした動きが社会的に広がっていくことが期待される。
3)ワークシェアリングの実施根拠について
法律型は、国の施策として一律強制により進められることになり、個別企業・業界の実態、労使自治への配慮が乏しく、受け入れられない。
労働協約型は、わが国の労使関係、労働慣行に馴染みやすい手法である。
4)ワークシェアリングの時短手法について
一律型(画一型)は、国情(国民性)や労働慣行にも沿ったもので、個別企業ごとの交渉を想定する上でも現実的である。
個別型は、わが国の労働慣行と大きく異なっており、的確な対応が可能かどうか懸念がある。
4.ワークシェアリングの具体的方向と課題
1)雇用の維持か創出か
今、求められているのは雇用の維持であり、具体的には緊急避難的な雇用維持型ワークシェアリングの導入、実施に係る問題点を検討した。
2)多様な時短方法の併用
雇用維持型ワークシェアリングとして最もシンプルな形態は、全社員一律の時短実施である。
画一的時短にそぐわない場合には、業務特性に応じた、日、週、月、年を単位とする時短の組み合わせを検討することも考えられる。
特定部門や特定事業場のみを対象とする限定的なワークシェアリングの実施も考えられるが、この場合、労使間でより慎重な話し合いが必要とされよう。
3)ウェッジシェアリング
ワークシェアリングに伴う賃金の減収は、労働組合との集団的な問題としてだけでなく、個人レベルでの労働条件の不利益変更問題も惹起する可能性がある。
賃金の決定単位は種々であっても、当該賃金がカバーする対象範囲(標準の労働量=所定内労働時間)を意識しない賃金はあり得ず、結局、賃金は1時間当たりの価格=時間給(額)が基本となる。
ワークシェアリングによって時短が行われるということは、当該賃金がカバーする対象範囲が変化するということであり、基本となる時間給(額)を基に再計算がなされなければならない。
4)福利厚生面への留意
ウェッジシェアリングが行われても、現金給与以外の人件費は、一部を除き、費用負担の圧縮効果を受けず、使用者の負担が従前通りに維持されることに注意が必要である。
5)標準報酬などの低下対策
標準報酬などの低下は、ワークシェアリングの実施に伴うやむを得ない結果と考えるべきである。雇用保険や年金、医療など社会保障制度、税制等についても、雇用形態多様化時代に相応しい法整備が望まれる。
6)二重就業問題
二重就業には、今日までと違って新しい観点からの評価も必要であり、かつ、労働義務のない時間が増える一方で賃金は低下するという事情を考慮して、新たな対応を考えるべきである。
7)労働関係法制との関係
労使合意に基づいて実施される限り、現行法制との間で新しい問題が直接に発生することはないと思われる。
ただ、二重就業時の労働時間の通算や労働・社会保険関係の実務といった従来から存在する問題が表面化してくることには注意を要する。
8)交渉相手、労使交渉上の問題点・留意点
労使、とりわけ労働者側の交渉者は、雇用維持という集団の利益が個人の利益に優先するという分かち合いの精神を全構成員に納得させる必要がある。構成員の一部であっても理解が得られない場合には、ワークシェアリングを導入できない事態も考えられる。
雇用維持のための労使の選択が広く理解されることが期待される。 なお、交渉の前提として、より一層の経営情報、業績情報などの開示が必要となる。
9)労働組合側の構想について
所定外労働分の新規雇用への転換を求める労働組合側の構想に対しては、
1.所定外労働に対するミクロレベルでの量的・質的側面の検討
2.新規雇用に伴う法定外福利費などの人件費負担増加への過小評価
3.景気変動に対する緩衝材としての所定外労働の効果への認識
といった点で疑問があり、賛同し難い。
5.わが国におけるワークシェアリング導入・実施時のチェックリスト
緊急避難的な雇用維持型ワークシェアリングの導入・実施に際しては、以下の項目について、労使間での十分な事前の話し合いが必要である。
・ワークシェアリングの期間
・期間中の労働時間短縮(仕事の分かち合い)の内容
・期間中の賃金の取り扱い(所得の分かち合い)の内容
・期間中の雇用調整措置の有無
・標準報酬の低下に伴う問題への対応
・期間中の二重就業への対応
・退職金の取り扱い
・昇給の取り扱い
以上



