日本版401(K)のあり方
〜導入における留意点と制度普及のための視点〜
社会保障制度特別委員会委員長 豊住 崟(ダイハツ工業相談役)
日本版401(k)制度専門委員会委員長 吉村 光央(ハウス食品専務)
要約
委員会設置の経緯
社会経済環境が大きく変化するなか、新しい私的年金制度である日本版401(k)制度が来年にも導入される見通しである。
そこで本会では、「日本版401(k)制度専門委員会」を設置し、企業が同制度を導入する際に参考となり得る指針の検討を行うとともに、制度普及に向けた具体的見直しについて提言をとりまとめた。
概要
1.日本版401(k)制度導入の背景と検討経緯
日本版401(k)制度導入の背景となった社会経済環境の変化としては、1.公的年金の給付水準適正化、2.企業年金の財政状況の悪化、3.新会計基準の導入、4.雇用の流動化の進展、5.ライフスタイルの多様化、が挙げられる。
こうした社会経済環境の変化を背景に、1996年頃からわが国においても確定拠出年金導入への期待が高まってきた。
その後、経済団体、関連諸機関などから確定拠出年金導入の提言が相次いで発表されるなか、1998年12月には『確定拠出型年金制度の導入について』(自民党提言)の構想案が、1999年7月には『確定拠出型年金制度の具体的な仕組みについて』(厚生省、大蔵省、通商産業省、労働省の4省案)が発表された。
その後、同年12月には、自民党税制調査会の税制改正大綱において最大の課題とされていた税制面での取扱いも大筋ではあるが示され、これらにより、わが国における401(k)制度の骨格がおおよそ固まった。
2.日本版401(k)制度案の評価とあるべき制度の考え方
日本版401(k)制度案に関しては、限度額の水準や拠出形態のあり方、特別法人税課税の是非、支給事由や脱退一時金の支給要件など多くの見直すべき課題が残されている。
しかしながら、日本版401(k)制度導入への扉が開かれたという点では同制度案は評価でき、一刻も早い法案再提出とその成立および施行が望まれるところである。
また、今後、上述の課題を含めて制度の見直し、あるいは政省令により細部を検討する際にはこれまで以上に、同制度は何のために導入されるのか、そして誰のための制度導入なのかが念頭に置かれるべきであると考える。
3.企業における日本版401(k)制度導入の考え方および留意点
主な制度導入の方法としては、1.新規採用の従業員から導入、2.各従業員について今後の将来期間分から導入、3.企業年金等の過去期間分に係る年金資産等を個人ごとに分配し、日本版401(k)制度に移換する、という方法が主なものとして考えられる。
こうした方法を基本に労使により移行が検討されると思われるが、実際の労使交渉において焦点になると思われるのが、1.過去期間分についての清算、2.運用利回りの設定と退職金カーブとの調整、についてである。
何らかの方法で計算した一時金を過去期間分として、従来の制度から401(k)制度へ移換する場合、その一時金をどのような基準で評価するのかということが、重要なポイントとなる。基準としては会計基準と退職による基準が考えられるが、本委員会では退職による基準を用いることが妥当と考える。
また、運用利回りの設定と退職金カーブとの調整については、現行の退職金の給付水準をある程度目安にする場合は、運用利回りの適正な設定と給付額における従来の退職金カーブとの調整が必要となり、この点が労使交渉の最大の焦点になると思われる。
加えて、公平性を確保し、従業員の期待権をある程度保証するためには、日本版401(k)制度導入後の給付総額の増加カーブを、従来の退職金カーブに近付ける必要性が出てくる。運用利回りの設定の仕方で大きく異なるが、最終的な給付水準を移行後も維持したいのであれば、部分移行の場合は、日本版401 (k)制度以外の給付で調整を行ったり、全部移行の場合は、移行時の年齢により移行後の日本版401(k)制度への拠出額に差を付ける等の従来の退職金カーブに近付けるためのきめ細かな対応が必要となる。
4.制度普及に向けた具体的提言
日本版401(k)制度案は、基本的に評価できる点は幾つかあるものの、なお改善を要する事項も多くある。
見直すべき事項としては、拠出限度額、移換可能限度額、拠出形態、特別法人税、脱退一時金、支給事由、受給権の付与、受託者責任、ハイブリッド型、などが挙げられる。
具体的には各項目について、次のような見直しを求めたい。
1)拠出限度額
・既存制度の有無による拠出限度額の格差を取り止める。
・標準的な退職金・年金原資を確保できる水準に引き上げる。
2)移換可能限度額
・移換可能限度額に制限を設けない、もしくは移行に支障が生じないような額に設定する。
3)拠出形態
・企業拠出に付加する従業員拠出を可能とする。
・従業員拠出に付加する企業拠出を可能とする。
・既存企業年金制度がある場合であっても個人型拠出を認める。
4)特別法人税
・特別法人税は課さない。
5)脱退一時金
・既存企業年金と制度的均衡に留意しつつ再度検討する。
6)支給事由
・離転職の場合は、特例的に引き出しを認める。
・経済的困窮に陥った場合や住宅取得(住宅ローンの返済)の場合は引き出しを認める。
7)受給権の付与
・エリサ法より厳しい受給権付与スケジュールを見直す。
8)受託者責任
・投資教育と投資アドバイスの境界線を明確化したガイドラインを設ける。
9)ハイブリッド型
・早期導入を検討する。
5.関連諸制度の政策的課題
日本版401(k)制度は現行制度の移行に関する法整備がなければ事実上難しく、法整備の巧拙は非常に大きなポイントとなる。そのため、法整備にあたっては柔軟な移行方法、既存制度の要件緩和が求められる。
とりわけ、1.厚生年金基金からの部分移行においては、プラス・アルファ30%以上のルール、2.適格年金からの部分移行においては、加入者負担50%以内のルール、3.そして全面移行の場合は、解散基準、残余財産の取扱い、などが日本版401(k)制度への移行の障壁とならないような措置が求められる。
また、日本版401(k)制度には特別法人税を課することとなっているが、特別法人税については、適格退職年金、厚生年金基金のどちらを制度として採用するかの決定に際して、その税負担の差異が重要な要素になっていること、また、現在その適用が停止されているものの、諸外国に例をみない制度であり、企業年金財政への影響など問題点も多いことから、時限的な適用停止措置ではなく、廃止が必要であると考える。
以上



