〜定期昇給制度の今後のあり方〜
労働政策特別委員会定期昇給制度専門委員会委員長 下川 忠(住友電気工業常務)
要約
委員会設置の経緯
社会経済環境が大きく変化するなか、わが国の賃金制度を特徴づけてきた昇給制度、とりわけ定期昇給制度のあり方が問われている。
すでに見受けられる定期昇給制度見直しの動きは、単に個別企業における制度見直しに止まらず、同制度が有効に機能する前提となってきた経済社会環境の変化を受けて大きな潮流となりつつあるという見方もできる。
そこで本会では、「定期昇給制度専門委員会」を設置し、定期昇給制度の今日的意義を問い直すとともに同制度の課題と今後のあり方について提言をとりまとめた。
概要
1.定期昇給制度の機能と課題
(1)定期昇給制度の機能
年齢や勤続、あるいは習熟といった年功の経過に伴って賃金を上げていくという定期昇給制度は、従業員間の調和と企業内秩序の安定を図る、或いは企業内訓練による技能・能力の向上、技能継承などを円滑なものとするなどの機能をも有するものであった。
(2)定期昇給制度をめぐる環境変化
しかし、経済成長の鈍化、国際競争の激化、若年層を中心とする働き方への意識変化、雇用の流動化、高齢化の進展と雇用延長の社会的要請など社会経済環境は大きく変化し、それが定期昇給制度見直しに向けて大きな影響を及ぼしている。
(3)定期昇給制度の課題
経済社会環境の変化により、定期昇給制度の果たしてきた役割は低下しており、むしろ、そのデメリットがクローズアップされてきている。
デメリットの具体的内容として一般的に、
1.職務・成果と賃金との乖離、
2.人件費の硬直化、
3.柔軟性の欠如(弾力的な賃金政策が困難)、などが指摘されている。
(4)定期昇給制度見直しの方向
定期昇給制度のデメリットが顕在化しているが、その一方で、年功的な定期昇給制度が果たしてきた技能形成と労働努力、安定的な労使関係の形成という機能は、職種や業務によっては今日においても欠くことのできないものととらえる企業も少なくはない。
したがって、どのような職種あるいは職務に定期昇給制度を適用するか、を分析していくことが重要になるものと思われる。要は現環境下において、企業にとって定期昇給制度における必要な機能をどのように残すのか、そしてその機能と対象をどのように絞り込むのかということである。また、こうした検討には従業員の理解が不可欠であり、その意味で理解に向けた労使の努力も併せて重要なものと考える。
2.定期昇給制度の今後のあり方
今後の定期昇給制度の基本的方向について検討した結果、以下の二つの方向が考えられる。
(1)年齢・勤続、習熟の伸びに伴う自動的な昇給部分のウエイトの引下げ、あるいは廃止
環境条件の変化などにより年齢・勤続が能力や働きの指標とは成り得なくなりつつあることから、年齢・勤続による昇給のウエイトを下げ(あるいは廃止)、職務や成果に応じた昇給を中心とする。
(2)年功的な定期昇給制度を適用する従業員範囲の限定
- 一定の年齢等による頭打ち、または減額
年齢による標準的な生計費の上昇の限界や、習熟の伸びの鈍化などに対応して一定の年齢で自動昇給部分を停止したり減額(マイナス定昇)する。
また、一定年齢以前における定期昇給は、年齢や勤続ではなく能力の上昇に伴う習熟昇給をその考え方の中心とする。ただし、この習熟昇給においてもその査定が年功的とならないよう充分留意すべきである。
- 従業員の職種等での限定
今後、職務や成果を中心とした人事・処遇制度へのシフトが進むなかで、定期昇給制度の意義が残るのは、年齢に応じて、あるいは勤続に応じて職能が上昇することが期待される職種、資格の従業員に局限をする。
具体的には、1.技能継承を必要とする生産技能職、2.個人としての成果を計ることが困難な、または予め定められた職務を確実に遂行することが期待されるサービス・事務・生産職などである。
3.関連する人事・処遇制度等の課題
定期昇給制度の見直しと併せて、人件費総額を業績に連動させる観点から賞与については、より個人の成果を反映させると同時に、部門業績および企業業績への各人の貢献度を的確に評価し、公正な個人配分をしていく必要がある。
また、賃金体系および定期昇給制度の見直しに際しては、年功的賃金カーブの変更により、職務・成果主義的な処遇制度としての退職金制度の整備にも留意が必要である。
退職金の全額給与払い方式や、今後の法整備に合わせた確定拠出型年金の導入もひとつの方向であると思われる。
4.新たな昇給のとらえ方
定期昇給制度は個々の企業において、それぞれの企業政策を反映した人事制度、賃金制度の枠組みに基づいて実施されている。したがって、どのような見直しがよいかということを一律的・画一的に結論付けることはできないものであり、その選択は個別企業に任せるべきものといえる。
しかしながら今後は、経済社会環境の変化に対応した昇給制度、という視点がますます求められるものといえる。そうしたなかで、定期昇給制度は、徐々に年功的要素から脱却しながら「定期的に個々の昇給・降給を決定するルール」に変化させていくという認識が重要と考える。
以上



