ストックオプションの考え方
〜人事労務管理の視点から〜

雇用対策特別委員会委員長 辻井 昭雄(近畿日本鉄道取締役社長)
ストックオプション専門委員会委員長 吉住 睦彦(帝人取締役)

要約

委員会設置の目的

グローバルな市場経済の展開と規制緩和による競争の激化等、経済構造が大きく変化する中で、「株主重視」、「企業価値の最大化」を目指す経営が強く求められている。そのため、報酬制度にストックオプション(自社株購入権)を導入する企業が増加している。

そこで、本会は「ストックオプション専門委員会」(委員長 吉住睦彦 帝人取締役)を設置し、人事労務管理の視点からストックオプション導入の方法や長所およびその留意点等を検討することとし、昨年11月以来9回にわたり検討を重ねた。

概要

1.ストックオプションの特徴

ストックオプションは自社株の購入権を付与する報酬制度であり、そのため次のような特徴を備えている。

中長期のインセンティブ報酬として機能する。
優秀な人材の確保、定着を促す。
株式を直接与える報酬制度ではないため、被付与者が負うリスクが少ない。
株式市場からの報酬である。
経営への参加意識、企業への帰属意識を高める。

2.ストックオプションの現状

現在、ストックオプションは全上場企業の5社に1社の割合で導入されている。
また、付与対象者を取締役のみとする企業は少なく、多くはその対象者を一部従業員にまで拡大している。

3.人事労務管理から見たストックオプション

1)ストックオプション導入の意義

社会経済環境がグローバル化と規制緩和で大きく変化する中、企業経営者が企業価値を向上させるには、変化への迅速な対応とその事業の方向性を中長期的な視点で企画、立案、実行していくことがより強く要請される。

一般従業員であっても、会社から与えられた仕事を単にこなすだけでなく、経営計画、経営目標の下で自らの仕事に工夫をこらし、それを中長期の事業成功に結び付けていくことが求められる場合もある。

ストックオプションはそのような役割と責任を担い、また、能力と権限を持つ者に対して将来における企業価値向上へのインセンティブを与え、中長期的な視点での事業計画の企画、立案、実行を促すものである。

2)既存のインセンティブ報酬との関係

ストックオプションは株価という企業価値と関わりの深い指標を反映させる中長期のインセンティブ報酬である。

インセンティブ報酬にはストックオプションの他に業績賞与、報奨金等があるが、それらが主として過去の労働の対価であるのに対し、ストックオプションは将来に対する期待の要素を含めた報酬という点で対照的である。

このような性質を持つストックオプションを他のインセンティブ報酬とどのように組み合わせるかについて検討する必要があろう。

3)付与対象者

ストックオプションの付与対象者に適する者とは、
企業価値向上に対して大きな役割、責任、能力および権限を持つ者
中長期のインセンティブ報酬が効果的に機能する者である。

企業価値向上に対して大きな役割、責任、能力および権限を持つ者としては、経営者や上級管理職等が考えられる。

一般的に、一般従業員等は企業価値向上への影響力が低いといえる。しかし、主として不特定多数の顧客に接する職種で構成される経営組織は、一般従業員の働き方が直接企業経営に重大な影響を与え、ひいては企業価値をも左右することもある。

また、従事する職務と企業価値の増大の結び付きを明確にすることによって、一般従業員等に対しても企業価値向上へのインセンティブ効果を期待することができる。現実に一般従業員に対してもストックオプションを付与する企業もある。

次に、中長期のインセンティブ報酬が効果的に機能する者であるが、そのような者とは、経営者や上級管理職等が考えられる。

さらに、企画、研究、開発等に従事する者も中長期のインセンティブの割合を多くすることが望ましいであろう。企画、研究、開発は中長期間経過後に初めて成果が出る傾向が強いからである。

このように、ストックオプションは企業価値向上に大きな影響力を持ち、中長期のインセンティブ報酬が効果的に機能する者に付与されることが望ましい。しかし、この二つの視点による判断は相対的、流動的である。

したがって、これらの視点から付与対象者の外延を明確にすることは難しい。どのような者を付与対象者とすべきかは、さらに、各企業の置かれている状況、ストックオプションに期待する効果、付与数の限界等から総合的に判断する必要があろう。

4)現金報酬との代替

ストックオプションを付与する場合、既存の現金報酬と代替させるのかどうかが問題となる。単に上乗せ的にストックオプションを付与した場合、株価が上昇しないことにより付与対象者が被る不利益は限定されるためである。

現金報酬の一部と代替させれば、付与対象者に企業価値向上に対する責任意識を喚起することができ、加えて株主からの納得も得やすくなる。

しかしながら、ストックオプションと現金報酬の代替は、労働法および労働判例の観点からは難しく、その実施には困難を伴うであろう。

4.ストックオプション成功のための環境整備

ストックオプション導入を成功させるためには、その他に以下のような環境整備が必要となろう。

1.経営情報の共有および経営方針の周知徹底
2.インサイダー取引規制への対応
3.公平な付与基準の作成と、透明性のある運用

規制緩和の推進、グローバル化の進展、国際競争の激化等企業を取巻く環境は大きく変化している。そのような中で、企業価値向上に対する要請がより大きくなっている。

ストックオプションはこのような環境の変化に対応するための報酬制度であるといえ、また、ベンチャー企業、中小企業等にとっては、優秀な人材を確保する有力な手段ともなる。

ストックオプションが人事労務管理の視点から十分に検討され、その導入が企業価値向上に繋がるインセンティブとなることが望まれるところである。

以上

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