メンタルヘルスケアの考え方
〜対応のあり方と行政諸機関への提言〜
社会保障制度特別委員会委員長 小池 洋(センコー社長)
メンタルヘルスケア専門委員会委員長 石原 正喜(倉敷紡績取締役)
要約
委員会設置の経緯
近年、職場におけるメンタルヘルスへの関心が急速に高まっている。しかしながら、その対応のための体制づくりの難しさ、個人の健康情報の取り扱いとプライバシーとの関係、産業医との連携のあり方など、検討すべき課題も多い。
そこで本会では、「メンタルヘルスケア専門委員会」を設置し、企業としてどのようにメンタルヘルスをとらえ、そうした課題に如何にして取り組むべきかについて検討することとした。
概要
1.問題の所在〜いま、何故メンタルヘルスが問題なのか〜
近年、職業生活に強いストレスを感じている労働者が次第に多くなっていること、また中高年男性の自殺が急増していることなどから、心の健康は大きな社会問題となっている。加えて、精神障害による労災請求件数、認定件数とも急増しており、企業に対し安全配慮義務を問う形で損害賠償を求める事案も増えてきている。労働者のストレス、自殺者数、労災補償などの状況を見る限り、近年、メンタルヘルスの問題が企業および行政にとって看過できないまでに大きな問題となってきている。
2.労働環境の変化とメンタルヘルス
日本的経営の見直し、高度情報化、情報通信技術の進展、勤労観の変化、雇用の流動化・多様化などの労働環境の変化は、労働者の精神的負荷を質的にも量的にも増大させる傾向にあり、そうした変化のなかで、現在、メンタルヘルスの問題が顕在化している。加えて、こうした問題は、労働環境の変化などから一時的なものではないことが予測され、メンタルヘルスへの対応は企業経営・人事労務管理上からも非常に重要な課題になっている。
3.メンタルヘルスケアの現状と問題点
これまで厚生労働省は、「トータル・ヘルス・プロモーション・プラン」、「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」、「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」などを策定し、メンタルヘルスの問題に対応しようとしてきた。
しかしながら、その対応が実態と乖離している部分などもあったことに加えて、企業としては、その重要性を認識しつつも、心理相談員の不足やメンタルヘルス対策のノウハウ不足、そして企業間で格差が大きいため一律にその対応を定めることは難しいこと、また、職種、職務によってもその内容が異なることも考え得ることから、その取り組みは試行錯誤の段階が続いている。
4.企業における今後のメンタルヘルスへの対応のあり方
メンタルヘルスへの対応のあり方として、基本的には、どのような対応が必要なのか等実態をまず把握し、企業文化との共存が図れるようにすること、そのうえで、精神科等の産業医の確保、相談室の設置とカウンセラー等の確保・育成、各種機関の活用、メンタルヘルス教育の実施、本人、家族、職場の上司、人事労務担当部門と産業医などとの相互連携が円滑に行われること等が重要である。その際、従業員のプライバシーにも充分留意する必要がある。
5.メンタルヘルスケアに関する行政諸機関への提言
メンタルヘルスに関しては、採用という雇用の入り口から、退職・解雇という雇用の出口までの間においてそうした診断項目が定められていない。労働安全衛生法等によりメンタルヘルスに関する診断項目を定める等の検討が行われるべきである。
また、メンタルヘルスへの対応のためには産業医、精神科医、企業の人事担当者の三者の連携を含めた社会的なサポートシステムなどが必要であることから、行政がイニシアティブをとって、その構築に取り組むべきである。加えて、労働者の健康情報に係るプライバシー保護は重要な課題であり、かつ非常に取扱いが難しい問題であることから、行政による一定のガイドラインの明示が求められる。
以上



