労働者の個人情報保護問題と企業の対応
労働政策特別委員会委員長 岡山 紀男(住友電気工業社長)
個人情報保護問題専門委員会委員長 川島 常紀(阪急電鉄取締役)
要約
委員会設置の経緯
世界的に個人情報保護の要請が強まる中、2000年12月に労働省(当時)は「労働者の個人情報保護に関する行動指針」を発表した。企業に対して労働者の個人情報保護が求められている。企業としては、経営上の要請との調和を図ることが必要である。
そこで本会では「個人情報保護問題専門委員会」を設置し、この問題に企業はいかに対応すべきかを検討することとした。
概要
第1章 個人情報保護をめぐる内外の動向
情報通信技術の飛躍的な発達に伴い、個人情報が大量に利用・処理されるに及んで、その保護が非常に重要になってきている。OECDやEUなどが勧告や指針を取りまとめ、国際的なルール作りが進んでいる。
わが国においても現在、個人情報保護法案が国会で審議されている。また、2000年12月には労働省(当時)が「労働者の個人情報保護に関する行動指針」を策定し、企業に対して労働者の個人情報保護を求める動きが強まっている。
第2章 企業における労働者の個人情報保護の現状と今後の課題
労働者の個人情報とは、行動指針によれば「労働者個人に関する情報であって、氏名、生年月日、その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」をいうが、現状において、企業は個人情報の保護に留意し、労働者のプライバシーを尊重していると言える。
しかし、企業経営上必要な労働者の個人情報は多くあり、企業に対して労働者のプライバシー保護のみを求めることは妥当ではない。したがって、企業経営と労働者保護という時として対立する利益を衡量して考えるべき問題である。
第3章 企業における個人情報保護の具体的方策
行動指針によれば、「組織的に保有するファイリングシステムの全部または一部」が保護すべき個人情報の範囲となる。そこで、ファイリングシステムに情報が入ってから、出るまでの諸局面、すなわち情報の収集、保管、利用、提供の各段階において、その保護方策を具体的に検討する必要がある。なお、その際、原則として労働者の同意が必要とされる。もっとも、この同意は包括的または黙示のものであっても足りる。
収集する個人情報は、企業経営上必要なものに限るべきであるが、場合によっては労働者の同意がなくとも収集できる場合がありうる。保管方法としてはいくつかの選択肢があるが、いずれも一長一短があり企業毎の判断が求められる。利用や提供は収集目的の範囲内でなされなければならないが、関連会社等に情報を提供する場合には、関連会社等における利用等についても範囲を逸脱してはならない。
退職者や求職者など企業にとって労働者に該当しない者については労働者に準じて考えるべきであるが、それぞれの特殊性に応じて別異の取り扱いが必要になる場合もある。
健保組合や労働組合も企業とは別法人であるから、企業がこれらの機関と個人情報を当然に共有できるわけではない。なお、企業内での情報管理については労働組合の役割が定められており、労働組合の同意をもって労働者の同意に代えることは可能であろう。
第4章 今後の個人情報保護法制のあり方
労働者に限らず個人情報の保護は非常に重要な課題であるが、行動指針は保護を重視し過ぎている感がある。今後、個人情報保護法案が成立すれば、行動指針も何らかの修正を受ける可能性があるが、その際には企業の営業の自由と労働者のプライバシーの利益衡量に基づく基準が設定されるべきである。
以上



