若手社員の早期戦力化
~大卒ホワイトカラー早期戦力化のための諸施策~

人材育成専門委員会委員長 山本 英樹(日東電工会長)
人材育成専門委員会委員長 出田 善蔵(大阪ガス専務取締役)

要約

こ のたび「人材育成特別委員会」(委員長:山本英樹日東電工会長)の下部組織である「人材育成専門委員会」(委員長:出田善蔵大阪ガス専務)において、入社 後6、7年目までの若手社員を早期に戦力化する上で必要とされる育成施策について検討し、提言『若手社員の早期戦力化~大卒ホワイトカラー早期戦力化のた めの諸施策~』を取りまとめた。

第1章 はじめに~なぜ若手社員の早期戦力化が必要なのか~

め まぐるしく変化する経営環境に即応するため、自社の課題を主体的に形成し、的確かつ俊敏な意思決定ができる経営幹部の早期選抜育成が重要であるとして、本 会では『ビジネスリーダーの早期選抜育成』(平成13年3月)を取りまとめた。同報告書では、昇進昇格において年功色を払拭し、優秀な若手の抜擢・登用を 進めて近い将来40歳代の経営幹部の誕生を目指すためには、その候補者を入社後概ね10年を目処に選抜し、ファースト・トラック・プログラムに乗せて計画 的に育成することが必要であると提言した。併せて入社後一定期間に多様でより高度な仕事にチャレンジする機会を意図的・計画的に与え、能力開発の場を提供 しつつ、将来の経営幹部候補としての適性や潜在能力を十分に見据えることが重要であると指摘した。

そこで、本会では「人材育成専門委員会」を設置し、大卒ホワイトカラーの育成において、入社後6、7年目までの初期キャリア段階でどのような育成施策が必要なのか、どうすれば早期に戦力化できるかについて検討することとした。

第2章 社内外の環境の変化

ス ピード化やグローバル化の進展、労働力人口の減少、若者の価値観の多様化等、企業を取り巻く環境はめまぐるしく変化している。このような状況に対応して、 多くの企業では、職能資格制度をベースとした能力主義から成果主義人事システムに移行している。また、意思決定のスピード化を目指して組織形態を従来のピ ラミッド型組織からフラット化する傾向も見受けられる。

第3章 若手社員の早期戦力化をめぐる課題の表出

通常、若手社員に対しては、日常業務を通じて教育する「OJT」を基軸に、「Off?JT」「自己啓発」を効果的に組み合わせながら、段階的にその成長を促してきた。しかしながら、昨今、以下にあげるような主に5つの要因により、OJTがうまく機能しなくなってきている。

(1)指導者の人材不足・時間不足

経営の効率化を図るため人員が削減され、部署によっては指導に当たる適任者が存在しない、あるいは、適任者がいても本人が多くの仕事を抱えて多忙を極め、若手社員に対してきめ細やかな指導ができないなど、指導者の人材不足・時間不足が問題となっている。

(2)職場内コミュニケーションの希薄化

昨今独身寮や社内行事の廃止などにより、職場の枠を越えて先輩と後輩がホンネで語り合うなど「ふれあい」の機会と場面が少なくなってきている。また、電子 メールの普及により、フェイス・トゥー・フェイスで対話する機会も減少するなど、本来円滑な人間関係づくりに不可欠とされる職場内コミュニケーションが希 薄になっている。

(3)異動やローテーションの機会の減少

異動やローテーションは企業と社員のニーズをすり合わせながら行 われる。しかし、経営の効率化を図るため人員が削減され、各職場とも人材不足となり、異動させた後を担う適任者がいない等の理由から、円滑なローテーションが行われにくくなってきている。

また、部門の業績が厳しく評価されるようになり、本人の意向とは関係なく、ラインリーダーが優秀な部下を抱え込む傾向が強まっている。

(4)仕事の変化等に伴うOJT格差の発生

業績低迷の中でコストダウンの一策として、これまで新入社員が担っていた比較的やさしい仕事をパート・アルバイト等の非正規社員やアウトプレースメントに代替される傾向が目立ってきた。その結果、初歩的な仕事を皮切りに段々と実践的なスキルを積みあげていく過程を奪われ、最初に配属される部署や担当する仕事によって、初期キャリアにおける基礎的な能力の形成において格差が生じることとなった。新入社員のうちから自分の実力以上に難易度の高い仕事を担当し、ミスマッチを起こすケースも見受けられる。

また、事業の多角化、複合化が進む中で仕事内容が高度化し、上司や先輩が過去に経験したことがないような課題に若手社員が初めて取り組むケースもあり、指導者自身の経験を生かして指導するといった、従来のOJTスタイルが通用しなくなってきている。

(5)若手社員が成長する前に離職

近年、中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が、「下積みの仕事に意義が見出せず、つらくても我慢する精神的タフさがない」「将来の人生設計を真剣に考えられない」等の理由により、入社3年以内に新卒で入社した会社を辞めている。企業経営の中核を担うことを期待し、厳選して採用・育成してきた優秀な人材の流出を防ぎ、いかにして企業に引きとめるかが大きな課題となっている。

第4章 若手社員の早期戦力化のための諸施策

(1)成長段階に応じた育成システムの構築

入社6、7年後、20代後半には、自部門における課題を創造し解決できる能力を備えた人材に成長することが求められる。そのためには20代のうちに着実にものにしておくべき能力を成長段階に応じて整理し、人材育成システムの体系化を図ることが必要である。

①入社1年から2年目 ~基礎的能力形成期~
 この時期には、OJTとOff-JTを効果的に連動した教育を行い、社会人としての基本的な姿勢の修得はもとより、初職における基礎的な専門知識・スキルの形成が求められる。

入社後の導入研修期間においては、合宿研修、工場や販売などの現場実習の機会を通じて、社会人としての基本的な態度、社員にとって必要不可欠な基礎知識、能力を徹底して鍛えることが求められる。さらには、配属後、OJTの実践にあたっては、上司の力量により指導・育成にバラツキが生じないように、フォーマット類を上手く活用し、組織全体として計画的・意識的に行うことが重要である。

併せて、優秀な人材の早期離職を避け、定着を図る取り組みも必要不可欠である。たとえば、同期入社の者同士のディスカッション、先輩社員の経験談(新人時代の失敗体験、当時の心境、現在に至るまでのキャリア等)を聴く機会を通じて、人的ネットワークの構築や仕事観・キャリア意識が醸成されるような施策が求められる。

②入社後3年から5年目 ~高度な専門知識・スキル蓄積期~
 この時期には、より高度な専門知識・スキルを構築し、それを活かして自ら何が正しいのかを判断し、行動できるプロフェッショナル(プロ人材)として活躍することが期待される。社外セミナーの受講などにより他社の社員との交流を通じて切磋琢磨することや、自己啓発支援など学びの機会を付与し、知的熟練とも呼ぶべき複雑で高度な専門能力を構築することが求められる。

さらに、後輩の育成に携わる「トレーナー」に任命し、指導力を養うことも重要である。トレーナー間の交流を図り、トレーナー同志が切磋琢磨しながらレベルアップできるように、社内LANを用いた意見交換や取り組み事例の報告会等を定期的に開催することも有効であろう。

③入社後6年から7年目 ~マネジメント基礎力修得期~
 この時期には、自身の専門知識やスキルに一層磨きをかけるとともに、リーダーシップの開発や課題形成・解決のためのプロセスを訓練する機会を意図的に設けることが重要である。併せて、本人が主体的・選択的にマネジメントの基礎を学ぶ機会を付与することが求められる。たとえば、外部のビジネススクールへの派遣や、コーポレート・ユニバーシティに代表されるような自社内において経営人材の育成プログラムを提供し、各人の希望に応じて受講できる仕組みを導入することも一考であろう。

一方、組織を牽引するリーダーは、マネジメントスキルやリーダーシップだけではなく、優れた見識、教養、倫理観を備えていなければならない。それは一朝一夕に築かれるものではない。そこで、20代の頃から、一流の人物、歴代の経営者の自叙伝や社史、歴史上の人物伝、優れた書物、文化、芸術などに触れ、見識を深め、視野を広げるように心がけることも重要である。

(2)リーダーの資質向上に向けた取り組み強化

若手社員は、上司や先輩など人の輪(和)の中で育てられ、OJTや日ごろの付き合いを通して多くのことを学習し、仕事の上でも人間的にも成長していく。したがって、若手社員がいかなる上司のもとに配属されても、育成において格差が生じないようにするためには、部下を持つ、すべてのラインリーダーの指導力の底上げを図ることが望まれる。

また、日常的な取り組みとして、部下が業務を遂行する上で、チャレンジングな仕事を意図的に与え成長を促すことが望まれる。その際、担当する仕事に関する裁量や責任の範囲を明確にし、報告・連絡・相談によるコミュニケーションなどを十分に図ることが必要となる。さらに、その仕事が結果として成功した場合には、次のステップに進めるような仕事を与え、逆に失敗した場合には、本人へのフォローと失敗した原因を推理させるようフィードバックを行う必要がある。

(3)意図的な異動・ローテーションの実施

異動やローテーションを意図的に実施し、キャリアの幅を広げることが重要である。人手不足等の理由により他部門への異動が困難であれば、同一部門内において、業務の担当替えを行う。また可能であれば、一定期間、他部門に留学する「社内留学」や、関連会社への出向や派遣も有効な方策であろう。さらに、本人の日常業務と並行して、タスクフォースやプロジェクトチームに参画し、社内の各部門から選ばれた社員とともに経営課題の解決に向けて取り組ませることにより、仕事の幅の拡大と質的向上、幅広いものの見方、考え方が醸成できるように工夫しているケースもある。これらの経験を通じて、誰が本当に実力・人間性ともに優れ、次代を担う経営幹部として抜擢されるべきなのかを見極めることが可能となる。併せて、本人の人的ネットワークが広がるとともに、優れたパフォーマンスを発揮することにより、「将来のリーダーとして適材である」という社内的なコンセンサスを得られることにもなる。

(4)キャリア形成支援の充実・強化

企業側のニーズだけではなく、社員の自律性を尊重し、自らの仕事にやり甲斐を感じ、成長のための自助努力、モチベーションの向上を意識した施策を講じることも必要である。その方策として、個人別に企業内キャリアを体系的に管理することが考えられる。まずは、キャリアの初期段階で、自社あるいはその業界において、どのような知識がどの程度必要とされるか、その全体像を理解させること、現在の仕事と将来の仕事のつながりを展望させることが求められる。

将来の展望を具体的に描くためには、企業内で、あるいは企業内の特定の職種で、どのような能力が求められているか、その能力を獲得するためには、どのようなOJT(仕事経験)およびOff-JTが必要なのかを明確にしなければならない。併せて、本人がどのような能力をどの程度保有しており、どのような仕事を希望しているかという情報も十分に把握することも重要である。さらに、今後は、若手社員のキャリア開発の一環として、先輩社員をメンターに指名し、職場生活の悩みを解消し将来展望を描くための支援を行う「メンタリング」の制度的活用も考えられよう。

(5)企業理念の理解と共有化

企業価値を高めるのは、そこで働く社員である。「人財」「従業員価値」などという言葉を使う企業が増えていることから明らかなように、社員をいかに育てていくかという「人材開発」が今、非常に注目されている。企業の活力は、社員が仕事に対するモチベーションを高め、その組織で働くことに喜びを見出し、自らの能力向上に努め発揮することにより生み出される。したがって、組織に対するコミットメントや働く満足度を深め、従業員価値を最大限に引き出すための取り組みが求められる。

まずは各企業において求める人材像を明らかにし、それに見合った人材を採用し育成することが重要である。若手社員の育成に当たっては、経営トップと人事・教育部門、各職場の上司やトレーナーが効果的に連携することにより、全社一丸となって推進することが求められる。その際、経営トップが企業理念や目指すべき方向を明確に示し、経営に対する共感と理解を得ることが重要となる。

若手社員は、この組織にいると将来にわたって成長することができるか、自分の仕事に誇りが持てるかどうか、仕事を通じて理想とする自分に近づけるかどうかを重要視している。経営トップは、常に高い志をもって、魅力的な組織風土づくりや、社会における企業の存在価値を意識して高めていくことがその使命として求められている。

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