『技能の継承~「現場力」維持・強化のための方策~』

「現場力強化検討会」(アドバイザー:中村恵神戸学院大学教授)

1.ものづくり現場を取り巻く環境変化

バブル崩壊後の長期不況の中で、ものづくりの現場はさまざまな環境変化を経験してきた。近年は、設備投資の拡大をエンジンに本格的回復基調にあるものの、「失われた10年」で負った傷は意外に深く、表面にはまだそれほど現れていないにせよ、企業の現場力をともすれば蝕んだのではないかと懸念されている。

なかでも、団塊の世代がいっせいに退職することから発生する「2007年問題」は、現場力の中核のひとつとして考えられる技能の伝承を脅かし、現場力の低下を現実のものにするのではないかと心配されている。

2.ものづくり現場の現状

厚生労働省の調査によると、回答企業の60%強が「技能継承への危機感」を持っている。一方、従業員の「能力開発に積極的である」企業ほど、技能継承への危機意識は小さく、経常利益の伸び率が高い結果となっている。

また、改正高年齢者雇用安定法の施行に伴う、定年年齢の引き上げや、再雇用等によって、技能継承に若干の余裕が生じている。

しかし、技術変化とともに技能の内実も知的化・高度化してきており、今後の「現場力」の維持・向上のためにも、そうした変化に対応した継続的な施策が必要である。

3.「現場力」維持・強化の具体的方策

(1)経営トップの強い意志と哲学

技能の形成にはコストを伴うが、それ以上のリターンを生み出し、それが企業の生産性、ひいては業績向上に結びつく重要なルートである。その重要性を経営トップが常に強調する姿勢を持ち、現場力がものづくり競争力を維持するための最大の源泉であることを認識することが大切である。

(2)自社の技能形成・継承システムの検証

1)個人の技能レベルの測定

「技能(スキル)マップ」を作成し、個人の技能レベルを把握することが重要である。作成にあたっては 、現在の仕事要素のみに止まらず、過去の仕事経験を含めた「キャリア情報」として整備し、将来 の人材育成計画に活かす。

2)技能を形成・継承すべき対象の明確化

職場での役割分担を明確化し、高度な技能を習得させる人材の比率を検討する必要がある。

3)非正規社員の技能形成と処遇

非正規社員の比率が増加し一層の戦力化が見込まれる。そのためにも、非正規社員を対象とした技能教育プログラムの拡充、正社員登用制度導入の検討も必要である。

4)教育システムの構築

教育訓練コース・メニューを企画する際には、現場のニーズと十分にすり合わせ、「技能マップ」と連動させることが求められる。

5)適切なインセンティブをもたらす技能者の処遇と評価

多くの企業の賃金体系は、「成果主義」を基軸とし、ホワイトカラー層に焦点を当てて設計されている。従来以上に必要とする知識や判断力が高度化している技能者にとっても、評価とその処遇への適切なあり方がどのようなものであるべきかを探ることは、引き続き大きな課題である。

6)海外現地従業員への技能伝承

海外での生産活動が多くを占めるようになってきた現在、海外現地従業員への技能伝承も考慮に入れなければならない。そのためにも、日本国内で培われた技能形成の仕組みをマニュアル化、文書化し、手順を整備することが重要である。

(3)教育現場への発信と連携−現場力の長期的維持・向上のために

現場力の長期的維持・向上のためには、ものづくりへの関心の低下を防ぎ、優れた人材を確保することが求められる。それには企業現場と教育機関の一層の連携が重要となる。特に、ものづくり現場の魅力について企業側からの発信やアプローチが必要である。

↑上へ