『管理者育成の方向と具体的施策』
「人材育成特別委員会」(委員長:山本英樹日東電工特別顧問)
「人材育成専門委員会」(委員長:林健治東洋紡取締役常務執行役員)
第1章 はじめに~今、なぜ管理者育成なのか~
1.今、なぜ管理者育成なのか
近年における管理者層は、次々と課せられる課題と日々の実務に追われ、本来、担うべき役割が果たせず、そればかりか管理者自身が心身ともに疲弊しているという現状にある。管理者のこうした現状を認識した上で、わが国企業における競争力の源泉及びその強化という視点から、今一度、その育成について見直すべきであると考える。
本会ではこのような問題意識のもと、「人材育成専門委員会」を設置し、管理者に求められる役割と育成のための課題を整理した上で、今後の管理者育成の方向及び具体的施策について検討することとした。
なお、本報告書では、部下やメンバーを率いて成果を上げていく、さらには後進を育てていくという責務を負う人材、いわゆる部課長やマネージャー、チームリーダーといった、「管理者」に焦点を絞り検討することとした。
第2章 管理者の役割と育成の課題
1.管理者を取り巻く環境変化
組織の構造改革や、雇用管理の多様化・複雑化、さらには成果・実績主義に基づく人事制度の導入やめまぐるしく変わる労働法制への対応など、管理者は、喫緊に迫る諸課題への実務的な対応・処理に追われるあまり、本来担うべき組織運営や部下育成に時間が割けない状況に置かれている。
2.企業が求める管理者像
本会が取りまとめた『提言 これからの時代に対応する企業内教育システムの構築』(平成12年3月)や、『次世代人材育成の手引き』(労務行政研究所平成 17年11月)における「能力開発・人材育成分野専門家アンケート」結果から、企業の求める管理者像としては、1.対人関係能力に長け、2.リーダーシップを発揮し、3.常に課題意識をもってその解決策を講じていく人材であるということがいえる。
3.管理者育成のための課題~従来型システムと今後の課題~
従来、管理者としての基本姿勢(考え方・能力・知識)の習得を主眼に置いた、全員参加が原則の画一性・同質性の強い定型訓練を中心に実施してきた。さらに企業内ローテーションといった人事制度を活用しながら、長期的視点により、企業が有する人材全体の育成を図ってきた。これは経済が安定成長している時代には有効に機能した。
しかし、バブル崩壊後の未曾有の不況の中、特定の人材の即戦力化や、短期的視点に基づいた育成施策を中心に行ってきた。また、コスト削減策として育成施策そのものを中断してきた状況も少なからず見受けられる。結果として、基本的な能力・知識の蓄積が不足している管理者が増加し、このことが、現在多くの企業で懸念されている「組織力低下」や「部下(組織構成員)のモチベーション低下」の一因となっている。
管理者育成のための課題は、従来型システムのどの部分を残し、どの部分をどのように改めていくかということである。時代の求める変化に対応しうる地力ある管理者をいかに育成するか、そしてそのためのシステムをどのように構築するかが問われている。
第3章 これからの管理者育成の方向と具体的施策
1.管理者に求められる役割
(1)管理者として不変の役割
- 1)マネジメントサイクルに基づいた組織運営
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管理者は、組織のパフォーマンスを最大限に引き出し、企業利益に貢献するという役割を担うことは不変であろう。
それを遂行するためには、最も基本的な管理手法である「マネジメントサイクル(PDCA)」の効果的・効率的運用が求められる。
- 2)部下育成~コミュニケーション能力とリーダーシップ~
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部下のモチベーションを高めるには、管理者自身が明確なビジョンを提示し、リーダーシップを発揮することが求められる。加えて、その組織に所属する部下の育成と信頼関係の構築が必要となる。
そのためには、コミュニケーションを効果的に図るとともに、部下個々人の育成計画を立案し、状況に応じて組織内における業務分担の見直しや異動を計画的・機動的に行うことが重要となる。
(2)現在、重要視されている役割
- 1)論理的思考力に基づく判断・指導
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公益通報者保護法や日本版SOX法の施行、ISOの浸透など、新しいルールや基準が次々に制定されている。
また、新たな発想に基づいた新規ビジネスを創出していく必要に迫られ、これまで以上に、過去のデータや経験に基づいての判断・指導が難しいケースが増えるであろう。
管理者には、膨大な情報から有益なものを峻別し、確かな知識や知恵を駆使し、その上で論理的思考力に基づく適切な判断・指導が求められるといえる。
- 2)メンタルヘルスマネジメントの推進
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このたび「人材育成特別委員会」(委員長:山本英樹日東電工特別顧問)の下部組織である「人材育成専門委員会」(委員長:林健治東洋紡取締役常務執行役員)において、今後の管理者育成の方向及び具体的施策について検討し、提言『管理者育成の方向と具体的施策』をとりまとめましたので、その概要版をご紹介いたします。
- 3)法令遵守の理解と徹底
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次々に創設・改正される労働関係法制への対応も従来以上に求められる。また、個別的労使紛争が増加傾向にある中、企業には法令遵守が強く要求されている。
現場の管理者においても、労働関係法制を正しく理解し、常にコンプライアンスという観点から法令遵守に対する意識を涵養し、高い倫理観を持って組織を運営していく必要がある。
2.管理者育成の方向
(1)管理者の基本姿勢の確立
組織運営を円滑に行うためには、「マネジメントサイクル(PDCA)の効果的・効率的運用」や、「部下育成」「リーダーシップ」「コミュニケーション」などを実践で発揮できる管理者の育成が求められる。そのためには、計画的な企業内ローテーションの実施といった、ある程度長期的視点に基づいた実践的な施策とともに、従来型育成の特質である、基本姿勢(考え方・能力・知識)の習得に重点を置いた教育体系の構築が望ましいと考える。
(2)過去のデータや経験では判断しかねる新たな課題への即応
過去のデータや経験では判断しきれないような新たな課題に即応するためには、現在、管理者が抱える課題をいち早く掴み、その解決につながる対策を迅速に行うことが求められる。それには、より一層の「上位職による指導の強化」「会社による支援体制の拡充」が重要となる。
また、次々に改正・施行される労働関係法制や、メンタルヘルス、セクシュアルハラスメントといった近年、増加傾向にある課題への対応においても、会社としての支援体制の拡充が求められる。
3.管理者育成の具体的施策
(1)経営トップの人材育成に対する確固たる志の堅持と周知
企業の発展を担う最も重要な経営資源は「人材」である。その中でも、組織の中核を担う管理者の育成は、多くの企業が最重要課題と位置付けている。
その育成の成功の鍵は、あらゆる機会を通じ、経営トップ自ら「人材育成(管理者育成)」の重要性を発信し続けることである。経営トップの理解を得られなければ、永続的な人材育成は期待できない。
(2)企業としての支援体制の構築
- 1)集合研修(Off−JT)を通じての施策
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1.管理者としての基礎の確立
管理者への昇格時においては、各自のモチベーションは概ね高いレベルで維持されている。この時点で管理者としての役割を認識させ、自己改革へのきっかけづくりとなる研修を実施することが有効であろう。
具体的には、昇格時(遅くとも昇格後半年以内)に、「マネジメントサイクル」「部下育成」「リーダーシップ」「コミュニケーション」といった管理者として必要最低限の知識や考え方を習得させることから実施すべきである。
加えて、初期の研修効果を有効に保つためにも継続的に実施することが求められる。なお、集合研修を実施するにあたっては、「ケーススタディ」などを用いた参画型の研修を施し、討議の機会を多く与えることが肝要である。
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2.時代の変化により必要となる知識の習得
論理的思考力の向上やカウンセリング・マインドの醸成、コーチングスキルの習得、さらに労働関係法制への正しい理解といった、専門性の高い分野に関しては、専門部署担当者や専門家を招聘しての研修の実施が有効である。加えて、外部教育機関や公的機関主催による外部研修に派遣することが効果的である。
また、部門・部署によって関心度合いが異なる知識については、選択型研修の一環として実施することも考慮すべきである。
- 2)職場上の課題に対応するためのバックアップ体制の整備
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1.上位職の教育・指導体制の確立
集合研修などを通じて得た知識を実践で活かすことが求められる。そのためには、上位職による教育・指導が必要不可欠である。
その際、方法論を示すのではなく、上位職と管理者との定期的な面談の場を設定するなど、普段からのコミュニケーションを通じてその原因の本質や、解決への方向性を示すことが有効である。
その上で、解決に向けての具体的な実践は管理者自身に委ねることが重要である。上位職の支援のもと、管理者自らの力で成功体験を積むことで、必要とされる能力が初めて身につくのである。
2.専門部署や専門家による助言・指導体制の拡充
労働関係法制や、メンタルヘルス、セクシュアルハラスメントへの対応など新たな課題も多い。これらは管理者独自で判断を下すことは困難であり、誤った判断を下してしまうと大きな問題につながりかねない。
管理者が判断に迷う課題に直面した時や個別的な悩み対して、助言・指導できる専門部署による相談窓口の設置や専門家による定期的な勉強会の開催といった支援体制の拡充が求められる。
- 3)管理者の自己啓発
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同期で管理者に昇格し、同じ研修を受講しても、数年後には成長に差が生じる場合が多く見られる。その原因は、管理者自身の自助努力の差によるところが大きい。 「滅私奉公」といわれた時代から「活私奉公」の時代に移り、能力開発に関しても、会社主導から個人主導にシフトしている。各企業においては、自己啓発のための研修メニューの提示や、経費負担といった支援策を講じることも必要であろう。
また、組織のリーダーとして、自己の人間的魅力や価値観・教養・見識を高めていく必要があろう。絶えず勉強し続け、色々なものを吸収しようという気構えを持つことが肝要である。
管理者育成の具体的施策<フロー図>



