報告書「新たな価値を生み出す人事マネジメント」
労働政策特別委員会委員長 牧野 明次(岩谷産業社長)
評価・人事マネジメント専門委員会委員長 平山 誠一郎(大丸執行役員)
企業を取り巻く環境が複雑化し、変化のスピードの早い中で、企業はどのような考えの下に経営を行っていくのであろうか。経営戦略における人事戦略の在り方や人事部門の役割について以下のように取りまとめた。
第一章 最近の環境変化
日本国内の市場は成熟しており、人口減少の影響で労働力供給には制約が出ている。また、グローバル化を筆頭の要因として、今後はますます競争環境の激化や、経営判断が困難になっていくことが予想される。
第二章 委員会としての環境認識
現在の環境変化に対応するためには、企業理念を明確にすることが重要であり、それが独自の社会的価値の創造につながる。
また、働くことへのインセンティブをいかにして引き出すかが重要であり、労働条件よりもやる気を引き出すインセンティブのマネジメントが重要である。 雇用形態で人の能力・意欲を測ることはできないため、雇用形態の枠に捉われずに人材を活用することも求められる。
第三章 経営戦略の改革
企業の独自性を発揮し、競争優位性を高めることが、企業の永続につながる。この競争優位の確立が経営戦略の目的であり、企業理念から、経営戦略、人事戦略、人事制度への一貫した政策設定が必要となる。 競争優位の源泉を持つための模倣不能なビジネスモデルは、企業理念を全員で共有することから始まる。
企業の競争力を高めるには、組織が一丸となって同じ方向を目指すことが必要なのである。企業理念への共感により、一人ひとりが組織へコミットし、人と組織が結びついた独自のビジネスモデルが創出される。
第四章 人事戦略の改革
人事戦略は、経営戦略の流れを受けて策定する。企業活動は、「人」なくしては実行し得ないため、人事戦略には他のすべての戦略(営業戦略、開発戦略等)を下支えする性質があるといえる。
また、人事戦略を改革することで全社にわたる改革も可能となる。このため、今後は「人」を中核に据え直し、「人」に着目した人事戦略の策定が不可欠である。
(1)タレントマネジメント
人は、経営資源の中で唯一、無限となり得、これを最大限に活用することで競争優位の源泉も高まる。人が本来持っている能力を本報告書では「タレント」とし、タレントをいかに獲得するかが鍵となる。企業の枠にはめるのではなく、社会全体での広範な領域でタレントを捉えると、今まで着目していなかった経営資源に気付き、引き出すことができる。
タレントを獲得し、それと仕事を上手く結びつけるタレントマネジメントを行うことで、達成感ややる気が生まれ、個と組織がともに伸びるという好循環が実現する。インセンティブが高まることで、企業の創出する価値は飛躍的に伸びるだろう。
(2)個別管理
タレントマネジメントを行うにあたっては、これまでの集団管理ではなく、個に着目した個別的管理が必要となる。タレントは人によって異なるため、管理や育成はそれぞれに合わせる必要がある。またそれは、多様な雇用形態で働く人に対するマネジメントとしても効果的である。
(3)人事戦略における企業理念
人事戦略も経営戦略と同様に、企業理念の浸透を念頭において策定する。企業理念が浸透し共有化されることで、全員が一つの理念に向かって役割を果たすからである。
また、企業理念に賛同して働く人は、仕事を通じて成長できることがインセンティブとなり、自ら選択した場で働くため、労働力の流動化への対策ともなる。さらに、社外に企業理念を発信することで、共感する人を新たに惹きつけることにもなる。
企業理念が浸透し、インセンティブが高まり、組織への求心力が強まることで、企業理念に賛同する人が働き続けることとなり、そうした結果としての終身雇用が生まれるだろう。
第五章 人事制度構築の新視点
企業理念から経営戦略、人事戦略の流れを受けた人事制度を構築するにあたっては、新たな視点が必要となる。
(1)経営者からの発信
企業理念の発信は、経営者が自ら行うことが必要である。経営者が自らの言葉で語ることで、企業理念が一人ひとりにまで浸透し、組織を結束させることができる。
(2)ライン管理職の役割
ライン管理職は、企業理念の浸透、タレントマネジメントの遂行において大変重要な役割を果たす。企業理念を理解し共感していることが求められ、加えて、担当部門の仕事の把握・整理と、部下のタレントの把握・発掘・育成を行うことが求められる。
部下のそれぞれのタレントに応じた方法で、企業理念と仕事を結びつけて説明し、仕事をさせるという役割がある。
(3)タレントを活かす評価制度
会社が従業員に何を求めているかを明らかにできるため、評価は企業理念を具現化する絶好の手段である。タレントマネジメントの一環として行うことで、タレントを発揮したことを評価し、次の目標につなげ、一人ひとりが進むべき方向や将来像を明確にし、モチベーションの醸成・向上につなげることが重要である。
第六章 今後の人事マネジメントの在り方
(1)タレントの獲得
人事機能の最大の使命は、タレントの獲得である。獲得とは、既に社内にある人のタレントの発掘や育成、社外からの採用などをいう。
タレントマネジメントを基軸とした、個に着目する考え方により、量的・質的にタレントを増やすことができる。
(2)企業における人事の役割
人事の役割であるタレントの獲得は、経営者やライン管理職との協働作業によって実現する。
人事には、企業理念に沿った人事マネジメントができるよう、経営のサポートを行う役割がある。一方で、現場でのタレントの育成は、ライン管理職に任せる方が時機を見て的確に行うことができるため、主体的な当事者意識を持つラインを作ることも人事に求められる役割の一つである。
人事は、経営のサポート役であるとともに、ラインを下支えする役割も持つ。
(3)就業形態多様化に対する考え方
タレントマネジメントは、就業形態の枠に捉われることなく、すべての人に行う必要がある。
全社的な企業理念の共有化により、有期社員や短時間労働社員等のモチベーションの向上が図られ、企業全体の意識レベルを高めることができる。
(4)新たなロイヤリティの創出
このようなマネジメントを継続することで、それぞれの企業にとって最適な人事制度が定着し、その企業独自のビジネスモデルが創られる。多様な人材を受け入れ、活用することで、これまで以上に多くのタレントを惹きつけることとなり、企業にさらなる活力を生み出すだろう。
今後、より良い組織を作るためには、いかにして企業理念に共感する人を集め、育てるかが鍵となる。企業理念を明確に打ち出し、人々の自律的・選択的・主体的な参画意識を高めることが、新たなロイヤリティの創出につながり、強い求心力を生む。
新たなロイヤリティによる人を惹きつける力は長期的に持続するため、労働力が流動的であるこれからの時代においても、参画意識を持った人々が集まることとなる。同時に、企業が創造する価値が社会に共感されたとき、企業は長く発展するだろう。



